ローマ狂言一座に学ぶもの

9月の末、国立能楽堂。「演劇雑記~出会いは次の章の複線~」でも紹介した「ローマ狂言一座」来日公演を拝見した。

演目は「恋の骨折り」。早稲田大学教授・関根勝氏がシェイクスピアの「十二夜」とコメディア・デラルテの筋書きを下敷きにし、翻案したものである。日本語をを学んでいるイタリア人学生が日本の伝統芸能・狂言を見事演じきった。

イタリアのコメディア・デラルテと狂言に共通点が多いことに気がついた関根氏は「日本とイタリアの伝統文化を融合させることで、まったく新しい舞台になる」と、昨年「実験ツァー」と評する初めての公演を日本で行っている。数多くのマス・メディアにも取り上げられ、ご覧になった方もいるだろう。今回は「前回よりも完成度を高める」と臨んだ再演である。

正当な狂言から見れば亜流かもしれない、しかし実験劇としては真に真摯であり、好感が持てた。

俳優達はプロではないが、学ぶべき点は実に多い。表現したいという欲望、意欲が強く、内面にあふれんばかりの「役者魂」が渦巻いているのだ。関根氏は「あれでも表現を抑えさせた」とおっしゃる。結果、抽出された演技は凝縮されたパワーを舞台にみなぎらせていた。

私の教室で学ぶ多くの生徒に求められるもの。まさにこの「表現したいという欲望と意欲」に他ならない。羽鳥塾では演技ツールの一つとして台詞の発声から始める。それが「芝居っ気の多い」俳優の卵達にとって、時には足枷になり、彼らの表現意欲を奪う。

しかし「縛り」を克服してくると、俄然演技力が増してくる。演劇雑記でも度々触れている「発声と発想の一致」である。押さえつけられていたパワーが内面で支えられたリアリティーによって嘘のない演技に変化する。そして発声という出口から台詞がほとばしり出るのだ。

誰もが芝居っ気がたっぷりあるわけではない。大人しい生徒も、自分の感受性を信じ、必死になってその発露を見出そうと懸命だ。しかしなかなか「殻」が破れない。「自意識を捨て、想像力を駆使して作り上げた登場人物の造形の中に飛び込むこと」。この壁が高い。レッスンの中で、絶えず自己と対峙しながら獲得していく他はない。

ローレンス・オリビエがアンソニー・ホプキンスにアドバイスしたという言葉のうち5つだけ紹介する。

・リスクを負え

・命をかけろ

・正気を捨てろ

・バカになれ

・演技に集中しろ

2005年10月21日