「孤児マリア」を終えて~迷いが解けた瞬間
9月2日の日曜日。「孤児マリア」の公演が終わった。
演劇の世界に入り36年になるが、初めての感覚が私を襲う。
「何も考えられず、頭の中が空っぽ」。色で言えば「白濁食」。
ありきたりの言葉ではあるが「全力を出し切った」
「死力を尽くした」後遺症だった。
実は稽古を始めてから「良い作品になるだろうか」との危惧が絶えずつきまとっていた。
ストーリー展開が今一つ緩く、打開策が掴めない。
「失敗」もあり得ると内心不安が募り、まさにオリジナル・ミュージカルの難しさに直面していた。
恐怖を打ち消したのはナンバーの追加だった。
鈴木喬子さんにお願いして、M5B「希望」に「志を高く~」のメロディーを足してもらう。
聴いた。行けるかもしれない!直感した。
テーマが明確になり、この歌詞につなげるためにストーリーを紡いでいくという「大目的」が定まった瞬間だった。
他にも作品の成功に向けての懸念材料があった。
2幕の「画廊」のシーンをどう表現するか?
スタッフの進言もいくつかあり、何度コンセプトを変えたか分からない。
本物の絵を飾るか、それとも何か別の方法で…?
最終的に「肖像画を俳優が演じる」と決心する。 失敗すれば陳腐この上ない。
だが劇場という現場に行かなければ判断ができない。
舞台稽古という限られた時間の中で作りあげなければならないのだ。
代替策は用意しない。美術の仁平君は「行ける」と言う。賭けだった。
舞台稽古当日…。窓枠を額縁に見立てる装置は成立していた。
後は俳優を配置して本当に絵画として成り立つか…?
照明の太田君と二人で知恵を絞りに絞る。
試す、違う、試す、違う、を繰り返し、「これもダメですよね」と太田君がつぶやきながら次の明かりにスライドした時、私は「待った!」の声を張り上げた。
「前のものに戻して…、それ、いい…」。
中央正面セシル役の女優さんの全身が、鮮やかに肖像画として表現された。
今回も「夜物語」と同様、良いものを作ろうと開幕寸前まで必死の努力を重ねた。
だが「孤児マリア」のほうが格段の達成感がある。
楽曲と振付の基盤の上に衣裳、照明、美術、音響、各スタッフのコラボレーションが行なわれ、結果、仕上がりが予想以上の出来栄えとなったのだ。
各スタッフが私の言動、指示を不快に思ったことは一度や二度ではないだろう。
しかし、結果オーライ。皆さんには心から、心から感謝する次第である。
音響の遠藤君、衣裳の仲村さん、照明の大田君、美術の仁平君、そして舞台監督の伊藤君。
ありがとう!