YAKUMOを終えて2 照明

永野明子さん。この春、私の企画した「バレンタイン・コンサート」(玉川髙島屋アレーナ・ホール)で照明を担当していただいた。その真摯で積極的な姿勢とシャープな照明作りに感銘し、今回のプランをお願いした。

普段はアレーナ・ホールでの展示会や全国各地でのコンサートをメインの仕事をしてらっしゃる。だがお芝居(ミュージカル)は初めて。彼女の起用は私の賭けだった。

「YAKUMO」は照明が演出の重要な部分を担う。晩年の小泉八雲が自分の人生を回想する中で、その時々の登場人物となり、ストーリーを進めていくというスタイル。

八雲、ラフカディオ・ハーン、エリザベス・ビスランド、サラおばさん、街の人、遠縁の人等々、変幻自在に変わる役は実に30を越え、要所々々で晩年の八雲に戻る。八雲に当たる照明のことを私は「八雲スポット」と呼び、夏の間に永野さんとは3度綿密な打ち合わせを行った。

さて舞台稽古。照明器具の仕込を終え、照明卓のコンピューターにプランを打ち込む。細かく大量のプランニングだから時間がかかる。永野さんが作業を終えたのは初日の昼間、通し稽古直前。

私はこの通し稽古で初めて全般に亘って彼女の照明を見た。ストーリーに沿っていて悪くなかったが、全体が今ひとつ明るく、彫像や仮面の際立ちが弱い。加えて肝心の「八雲スポット」も印象が薄くなってしまっている。私のイメージが伝わっていないのだ。

初日の開場時刻まで残すところ2時間強。私と永野さんは時計を睨みながら幕開きのシーンから照明を作り直していった。「それはオーケー」「今のよりも前の方がいいな」、「それは無理です」「このくらいでどうですか?」等々、我々の試行錯誤が続く。

「八雲スポット」も「暗がりの中に浮かぶ電話ボックスのように」と示唆すると、彼女は即座にイメージを理解してくれ、変更がすみやかに行われた。

全ての作業が終わったのは開場時刻の5分前。間に合った。 

2004年11月12日