羽鳥塾の稽古2内面の支え

羽鳥塾の月曜日と木曜日の初級クラスが、いよいよ「内面の支え作り」レッスンに入った。平たく言えば「リアリティーの追求」。これまでに行ってきた発声訓練はこのリアリティーを表現するための道具を磨くことであった。

頑なに自分に鎧を身に着けている俳優個々の状態によって施す処方箋は違うが、大きく分ければ以下の二つのエクササイズを新しく課す。

①「きょうの一日」

俳優にまずその日の朝からの行動を語ってもらう。発声にとらわれずに同じ内容を3~5度。本人が実際に経験していることだから、何度喋ろうが圧倒的なリアリティーがある。この時、自分の中に起こっている意識がどう流れているかを確認しもらう。語るとはどのようなメカニズムになっているのかを漠然とでもいいから知る事が大切だ。

そして途中、突如、課題として取り組んでいる台詞を喋るよう指示を出す。自分自身から登場人物への移行だ。この時それまで喋っていた「きょうの一日」の意識と同じポジションをはずさないよう心がけさせる。
自分がリアリティーを持って喋っている時の肉体と意識の流れを変えさせない。どのような役を演じようが、決して俳優個人から離れないことが大事であることを認識してもらうエクササイズである。

②「マイム練習」

語られる台詞の一語、一語に手振り身振りをつける。場合によっては動き回り、踊り、寝転がる。これまで行ってきた「手切り」エクササイズのような単なる言葉の「仕分け」とは違う。さらに一歩進んで、俳優本人が持っている言葉のイメージをマイムで表現してもらう。語られる言葉のイメージを肉体で表現できなければ、俳優が「リアルな時間を送っている」ことにはならず、台詞は単なる記号としてしか意味を持たない。

以上のレッスンはかなり難しい。殊に取り組みの最初は、ほとんどの俳優がお手上げ状態となる。しかし今までの発声の基本訓練と同じく、このレッスンを続けることで演技の本質が俳優の肉体に刻み込まれていくことは確実である。
「自分の素」を使って、言いたい内容を意識で追っていく。役の意識を自分の意識として捕らえ、その中で語られるべき言葉の内容をイメージと行動で示していく。

「俳優とは登場人物として生きていくこと」。言葉にしてしまえば簡単なこの大命題が俳優の体に刻み込まれていくには、具体的な技術訓練が必要なのである。

2004年06月10日