羽鳥塾の稽古5上手になりたい

「もっと早く上手になる方法はありませんか?」。レッスンに熱心な生徒に尋ねられて、私は苦笑した。

羽鳥塾が開講してやっと1年が過ぎようとしている。
生徒の多くは学校や仕事、そしてオーディションを抱えながらも、基本的には週に一度、私のレッスンに通ってくる。このところ、ようやく「立って台詞を言う」ことができる生徒が出てきた。

しかしここまでは厳密に言えば「演技」のレッスンではない。演技の前の段階。私が今まで求めてきたのは、「イメージを反映させた台詞を腹式の発声でしゃべる」という技術の習得である。「台詞を喋る発声と発想のメカニズム」を体現、実行させたにすぎにない。

このレベルに達した生徒がいよいよ本格的な演技のレッスンに入る。

登場人物同士がシーンを形成していき、羽鳥塾のスタジオで行われているそのシーンが、あたかも現実のものとして再現されているかのようなリアリティー。これを持つにはどうすればいいか。長い道のりだ。

テキストの背景を信じ、それを想像力を駆使し、自分に起こる現実のものとして対処する人物の創造。虚構の世界の中で生徒は、立ち、坐り、動き、止まり、語り、黙るだろう。彼らは必ず何らかの行動をし、登場人物として生き抜かなければならない。

このレッスンでは、前述の「発声と発想の一致」という基本技術を使うことが出来なくなってしまう俳優も多く出るだろう。「感情や心理・行動はそれでいいけれど、発声が伴っていないから表現として伝わらないよ」。

このアドバイスを受けた時こそ、基本技術に一年を費やした成果が出る。生徒は学んだことを思い出し、修正する方法を自ら模索できるはずだ。

その他にも「動きと意識の不一致」なる問題を含め、さらに様々な課題に彼らは突き当たるだろう。演技レッスンはまさにこれから始まる。この一年間は助走に過ぎなかった。ただしそれはとても大切な助走だったが。

それで冒頭の熱心な生徒に対する答え。「早く上手になる方法はありません。もしあったら僕がやってました。レッスンを続けましょう」。

2005年04月01日