YAKUMOを終えて4 美術
彫刻家・勝野眞言(かつのまこと)氏。初めてお会いしたのは6月。仮面製作をして頂けると制作サイドからお聞きしていたが、ご本人はご自分で製作された彫像を舞台に提供すると思っていらした。この行き違いは嬉しい誤算。私はすぐに舞台空間を「八雲美術館」にするという演出プランを練った。
まず、同氏の作品写真集をお借りし、どの彫像を使わせて頂くかを検討。夏頃には、勝野さんと意見は一致していた。青山円形劇場にいらした方は覚えておいでだと思う。ロビー入口に置かれていた男性の顔の彫像がその一つである。もう一つはかなり大きいもので男性が頭を抱えている全身彫像(ロダンの考える人のよう)。
この二つで「小泉八雲」の苦悩・心情を表現しようと考えていた。その他には街の人々や生徒たちに見立てる、小ぶりでお腹が突き出た3体対(つい)の彫像。
9月1日、舞台監督の笠井君、装置・衣装担当の多田君らと共に、勝野さんのお車で彫像作品が保管されている山梨県の大月へ向かった。この日にどの彫像を舞台に飾るかの最終決定をしなくてはならない。
私は勝野さんと合意を得ていた彫像を選択肢からはずした。理由はスケジュールの変更。開幕まで当初予定されていた日数の半分に満たない稽古期間となっていたため、稽古の練り上げ如何に関わらず、観客に出来るだけ分かりやすいストーリーにするための彫像を選択する必要があった。
そうして選んだのが母親・ローザ、恋焦がれるエリザベス・ビスランド、そして妻・セツ(母子像)の3体である。ただセツの母子像は大月にはなく、写真だけで選んだ。欠かせないものと判断したからである。
勝野さんは3つの仮面も製作して下さった。しかしそのうちの一つを女性の仮面としてお作りになっていることを耳にし、慌ててお電話。男性とも女性ともとれる中世的な顔に変更させて頂いた。あらゆる登場人物として観客に見て頂くためである。
そして、いよいよ舞台稽古前日。ピアノが下手に置かれている関係でシンメトリーに3体の彫像が配置できない。位置がどうもしっくりこない。しかし、舞台空間上部に3つの仮面をシンメトリーに浮かべてみると、ピッタリと納まっている。喝采!
本物の彫像と同じ彫像家の手で製作された仮面を飾らせて頂いたおかげで、狙い通りの「八雲美術館」が舞台に出現し、重厚感溢れる作品となった。
初日が開いた日、私は勝野さんにお願いした。「次回、また僕が舞台を創る時には舞台美術家としてご協力下さい」。勝野さんは満面の笑みをたたえ、「はい、やりましょう」と快諾して下さった。