YAKUMOを終えて5 最終回

音響デザインを担当して頂いた実吉英一(さねよしえいいち)さん。スケジュールの都合で私との事前の打ち合わせはたった一度。正直言って不安だったが、お忙しいスケジュールを縫って、たまプラーザまで来て頂いた。

実吉さんは細かい書き込みがしてある台本を広げると、幕開きからの効果音プランを次々と提示して下さった。その緻密さに感銘を受けた私は「実吉さんのお好きなように」と全てをお任せした。
そして本番。全編に的を得た効果音の連続だった。一番私が気に入っていたのは終幕に近い「鹿威(ししおど)し」の音。八雲がセツに過去の想いを打ち明けていると、情緒にあふれ風情のある竹の音(ね)が響いた。打ち合わせの時に「ここに鹿威しはどうかな?」とハニカミながらおっしゃっていたことを思い出す。
他にも八雲が初めて原稿を持ち込む出版社をたちどころにタイプライターの効果音で表現して下さる等々、ややもすると難解に陥りやすい「一人ミュージカル」を観客に分りやすいものとする心強い手助けとなった。

その実吉さんの片腕である音響オペレーターが遠藤宏志君。彼は沢木さんのその日の調子に合わせた微妙な音響ワークをみせてくれた。ワイヤレスマイクを通した台詞や歌が、実に自然で過不足なく聞こえてくる。その日の俳優の調子を見ながら的確にオペレーティングできる数少ない職人である。

さて、舞台監督の笠井隆行君。早くから現場で起こるであろう問題点を前もって洗い出し、何事もなかったように解決してくれていた。おかげで私はかなりの煩雑な作業に時間を取られずに済んだ。

舞台美術の多田真由子君は4ヶ月に亘る私の注文に泣き言・文句を一切言わず、道具のスケッチを何度も書き直してくれた。二人で打ち合わせしたカフェの店内装飾も「YAKUMO」美術のヒントになった。この二人の黙々と仕事に取り組む姿勢には頭が下がった。

そしてピアノの松川裕君。テクニックはもちろん一流だが、なんと言ってもハートがある。岩谷時子先生も彼の情感溢れる演奏を絶賛されていた。しかし稽古ではピアノの弾き過ぎで腱鞘炎にかかり、本番はテーピングをしながらの演奏だった。それでもテクニック・表現とも落ちない。人あたりは柔らかだが、玄海育ちの九州男児。中身は「男っぽい」はずだ。ナイスガイに拍手。

5回に亘り「YAKUMO創作秘話」としたが、一緒にモノづくりをしてくれたスタッフの力なくして「YAKUMO」は創れなかったことを痛感している。

総合芸術である演劇の面白さと、そしてその「怖さ」を再認識させてくれた。忘れられない作品「YAKUMO」。

2004年12月10日