USJの仲間たち
今年、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、「USJ」という)で仕事をさせて頂いた。
「トト&フレンズ」、「ワンピース」、「ヴァンパイア M子の夢」、これらプレミア・ショー3本の演技指導と演出協力である。
3月下旬、「トト&フレンズ」のリハーサルに初参加。プロ野球の落合監督ではないが、「オレ流」を貫いてきた俳優さんたちが「東京からどんな奴が来るんだろう?」と顔を揃えて身構えている。
クリエイティブ・スタッフによると、オーディションで厳選された彼らは、毎日様々なアトラクションやショーに出演しているプロではあるが、内心、演技に関して「本当にこれでいいのだろうか?」と自問自答しているという。俳優は自分の演技に関して客観的になれない。やはり技術的な指針が欲しい。私がUSJに求められたものが、この「指針」を彼らに示すことだった。
稽古を見せてもらう。俳優さんたちは芝居っ気(しばいっけ)たっぷりで、思い切った演技をぶつけてくる。しかし表現しようと意欲、熱意は伝わってくるが、「何を言っているのか」、「何をしているのか」、この二つが本人たちの思っているほど「飛んで」来ない。面白いのに、実に惜しい。
基本的な技術を説明した後、すぐに演技指導開始。自分の創り上げた表現を観客に届けるには「何が必要か」を具体的に挙げていく。「今、その登場人物は何をしてる?」の問いに、彼らは「何って・・・?こんな感じかな、って思って・・・」と、しどろもどろな返事が返ってくる。
「演技は雰囲気でやるのではなく、具体的なものである」、「自分の台詞に固執するのではなく、相手が放ってくる空気に乗って行くこと(交流)」等々の指導が進むうち、俳優さんたちの目の色が変わってくる。自分に言われている時は分からなくても、他人が言われているのを見て、「なるほど・・・」と合点が行き出しているのだ。
このような調子で行われたプレミア・ショー3本の稽古で、見違えるように進化していく俳優さんを見るのは楽しく、嬉しかった。彼らは私が提示する課題に対して実に真面目に取り組んでくれた。本番ではショーの売り物である得意のアドリブも爽やかで愉快な仕上がりを見せ、観客を楽しませていた。
俳優は作品を完結に導く「ワン・ノブ・ゼム」である。登場人物の一人として、ストーリーの中で果たさなければいけない役割を演技で全うする。その仕事が果たされた時、たとえどんな役であろうと俳優は「偉大なワン・ノブ・ゼム」、「誇り高きワン・ノブ・ゼム」となる。
USJには歌が上手く、踊りも素敵で、演技も魅力的な俳優さんが多く、ミュージカルの面白さを伝えるのに充分な素質と技術を持っている。プレミア・ショーは今後も楽しみである。
当たり前のことを繰り返す。技術の習得には「愚直(ぐちょく)」に取り組み、学ばなければならない時期がある。その時に必要なのは「素直(すなお)」であることだ。USJの俳優たち、いや、仲間達は充分「愚直」で「素直」だった。